A姫とBデレラ
〜1〜
あるところに、A子とB美という娘がいました。この二人はとても仲のよい姉妹なのですが、すかし変わっていました。姉のA子は『お姫様』を目指して、日々“高笑い”の練習をしていました。ある人の話によると、その笑い声は地球の裏側(ブラジ〜ル)まで届いたとか……。
「オーォッホッホッホゥッ!」
一方妹のB美は『シンデレラ』を目指して、日々床磨きをして“悲劇のヒロインごっこ”をしていました。
「あぁ……なんて私はかわいそうなのかしら……。どこかによさそうな金ずる(王子)でも居ないかしら。」
そんな訳で、この二人は近所でも有名な姉妹でした。
一方、こんな姉妹を持ってしまった両親が彼女たちのことをどう思っているのかというと、いつまでも自分の殻に閉じこもり現実逃避をし続けるのかと心配なのと同時に、進歩のない娘たちを見て嘆いていました。
さて、こんな二人ですが幼い頃はいったいどんな子だったのでしょうか。
……というわけで、少し昔に戻ってみましょう。
「ねぇママ、A子『おじょうさま』になる!」
そう固い決意を胸にしたのは、A子が三歳になった頃のことでした。
母はそんな娘をほほえましく思いながら
「そぉ、なれるといいわねぇ」
と答えた。まだこの時は子供の戯言としか見ていなかった母が、のちに後悔をすることは言うまでもありません。
その才覚を表したのは、A子が9歳になった時のことでした。
「オーォッホッホッホゥッ!」
ある日の午後のこと、家の中にけたたましい笑い声が響き渡りました。
その威力は初めてで幼いということもあって、ジャ〜パン全土に轟くほどしかなかったそうですが、にしてもうるさい。
当時の妹いわく、『ついにお姉ちゃんの気が狂った!』だそうです。
けたたましい笑い声が響き渡った後、もちろん母は血相を変えてAこの元へ駆けつけました。
「どうしたのA子!?」
「あっお母さん!もしかして、今の聞こえちゃった?」
母の心配を尻目にけろっとしているA子、そんなA子が次の瞬間母に発した言葉はというと……
「私ね、今お嬢様になるために笑う練習してたの」
だった。それを聞いた母はといえば、あまりの下らなさと馬鹿さ加減に卒倒してしまい、それから三日間寝込んでしまったとか。
そんなこんなでA子は今に至るのでありました。
では次に、B美の過去を除いて見ましょう。
「し合わせに暮らしましたとさ、おしまい」
母の『おしまい』という声と本の閉じる音を合図に、B美の夢の時間は終わりを告げました。
「ねぇお母さん」
「なぁに?」
「私もこんな風なお姫様になりたいなぁ」
『お姫様になりたい』それは少女の他愛もない夢。母はそんな我子を愛おしく思いながら
「なれるといいわね」
とやさしく答えて、また夢の世界へと誘うべく子守唄を歌いだす。
そうして少女は、また夢の世界へと落ちていくのでした。
当時B美三歳、もちろん母は後の恐怖を知るよしもありません。
B美がその才覚を表したのは、姉よりも少し早い六歳のこと。
いつものように平凡に日々を送っていた、ただし姉A子を除いて。
「B美、お買い物に行ってきてくれない?」
ある日、母はB美にお使いを頼みました。この時、A子のことがあり母はB美のことがあり本調子ではありませんでした。しかし、このお使いはB美にとって『初めてのお使い』でした。というわけで、心配性の母は本調子ではない体もなんのその、跡をつけることにしました。