乙女な鬼





 「さんって、鷹村さんの事好きなんですか?」

それは唐突な質問だった。

今私は、久美ちゃんと富子さんとケーキバイキングに来ている。美味しそうなケーキを眺め、何を取るか見定めていた時ふと、不意を突かれてしまった。

思わず、トングで掴んでいたケーキをポトッと落としてしまった。

 「へ?な、ななな、なんでそんな事ッ!?」

慌てながら、落ちてボロボロになったケーキを器用に皿の上に運んでいた。

 「だって・・・前見たんですよ、私。」

若干微笑混じりの久美ちゃんに続き、

 「そうそう!私、その見ちゃった日に聞いたんだから!!」

ズズイッと富子の顔が近距離まで迫って来る、鼻息が少々荒くて顔にモロ掛かりだ。

 「な・・・何を見たの?久美ちゃんッ」

息を呑む

 「その日の朝お兄ちゃんに『鰹節切れてるぞぉ』って言われて・・・お兄ちゃん、鰹節がなきゃお豆腐食べられないんです。だからコンビニまで買いに行ってる途中に・・・―――」


はちゃ〜〜〜・・・;


私には心当たりがあった、多分その日に私は、鷹村さんの早朝ロードワークに付き合いたいと言って付いて行った日だと思う・・・その時たまたま久美ちゃんらしき人を見た気がしたのだが、

まさかこの時になってあの時の話が息を吹き返すとは・・・;;

 「―――・・・それで、土手で見つけた時はビックリしましたよ!」

 「どうなのよ!ちゃん!!」

かなり顔が近い、ファーストキッスを奪う気か、この女ッ

 「あっ・・・いや・・・あの、あれは・・・・・」

 「やっぱり一緒だったんだぁ!!!!きゃぁ!熱愛発覚ぅ〜〜〜!」

並んでいる列で騒ぎ立てるブ・・・富子、クネクネしすぎじゃッ人が貴様をガン見しとるぞ。

 「と、兎に角座りません?;」

話を一旦切ろうと座る事を薦める

 「そうね!話はそれから☆」

・・・・・・・・・・強い、富子ッ

取ったケーキがのっている皿をテーブルに置き、三人は席に座った。
冷静を装い、まずは一口お水をゴクッ

 「・・・・・それで?」

このちょっとした間は、きっと彼女なりの気遣いだろう(多分)、
ま、全っ然、気遣いになってませんけどねッ☆

 「・・・・・話さなきゃ、ダメっスか?」

 「「押忍ッ」」


うわぁ〜〜〜・・・富子さんは解るけど、久美ちゃんまで『押忍ッ』ってぇ〜;・・・女の子なんだからさぁ・・・
いや、別に富子さんが女じゃないって事じゃないんですが・・・・・

 「(あ、青木さんに殺される・・・まぁ、私が返り討ちにするけど・・・)」

はスポーツ万能少女で、ボクシングもやった事があるらしいが・・・
何処まで行ったかは教えてくれないのだ。

 「(いくらなんでも私がチャンピオンになって何回か防衛したかなんて聞いたら・・・どんな男でも引くだろうに・・・;)」

う”ぅ〜ん・・・と唸りに唸るを尻目に、富子が顔を覗き込む

 「ねぇ、どうなの!?言っちゃいなさいよ!」

 「そうですよ!スッキリしますよ!」


モヤっとしてるのは誰と誰のせいだと思っとるんじゃぁ!


 「さぁ!さぁ!さぁ!!!!!」

何処かで見た事のある光景だが・・・・・
かなりの富子の猛攻撃を受ける

 「はぁ・・・解りました!言います、あの時の事!」

その言葉を聞いた瞬間、かなり鼻息が荒くなる富子、そして固唾を呑んで話を集中して聞こうとする久美の様子を見て、
あぁ、もう引き返せない・・・心底そう思った。

 「・・・あの時は・・・鷹村さんの早朝ロードワークの様子が気になって・・・いや、鷹村さんって世界チャンプだし!」

私の身振り手振りの説明(照れ隠し)している様子をクスクスと笑う二人、
・・・正直、自分が恥ずかしいッ

 「だから・・・その、私もボクシング経験あるし・・・強さの秘密を知りたいな・・・とッ」

 「・・・それで?」

 「だから、そういう目的でロードワーク付き合っただけです!」

 「「嘘だぁ〜〜〜!」」

なんで二人で同時にハモル!しかも年下の久美ちゃんにまで言われる始末・・・

 「嘘じゃないですよ!本当です!」

 「ヤダぁ!その後に何かあったんじゃないのぉ!?二人でロードワークで走っただけじゃなくて、その後」

 「あぁ!それ以上は言わないで下さい!私、富子さんと青木さんとは違いますって」

 「もぉ!まちゃるは別よぉ〜〜〜!」

 「「((こっ、この人・・・ッ!))」」

久美との心は通じ合っていた、
目が合った瞬間、二人は微笑んだ。

 「と、とりあえず!さんはあの朝、何もなかったんですね!」

 「その後じゃなくても、その前はどうかしら?」

目を薄くしてを疑わしい目で見る、だがしかし口元はにやけている。
はすかさず咳払いする

 「兎に角、何もありませんでした!さ、この話はこれで終わり!美味しいケーキが足生やして逃げますよ!」

 「そうですよ!富子さん、食べましょう?まだ一口も手を付けてないわけですし!」

 「うーん・・・それもそうね、食べましょう!」

それで良いのか、富子!
・・・でも、久美ちゃんナイスフォロー!

今まで放置状態だったケーキを食べ始める三人、
やっと遮断された話だと油断していると、

 「でも、変ねぇ、私の勘は外れてなかったはずなのにぃ・・・」

フォークを口に銜えながら話し始める富子、またその話に逆戻り・・・;

 「何がですか?」

話を進めるのに気は引けた久美だが、仕方なく訊く

 「だってぇ、時々たまぁに私まちゃるの様子見にジム行くけど、ちゃんを来てるのを見かけた時に、なんか鷹村と話してるちゃん、本当に女の子らしいんだもん」


な・・・何を言ってるんだ、この人!


 「そ、そんなぁ!鷹村さんと話してる時に女の子って・・・失礼ですよ!富子さん!」

笑い混じりで誤魔化すの言葉を聞いても、首は縦にゆかず、横に、左右に振られるだけだ

 「解ってないのぉ?かなりあなた可愛らしい表情で鷹村と話してるわよぉ?あれじゃぁどんな男も引っ掛かるわよぉ!まぁ
私のまちゃるはないけどね!おほほほ・・・」

 「「((いや、むしろその方が助かります;))」」

また目を見合わせる二人、手と手を取り合って力強く掴み合った

 「ちょっとぉ、何よそこぉ!手なんか組み合ってぇ!」

 「「いえ、心が通じ合ってるだけです」」

 「あっそ」

またケーキを貪り始める

暫く沈黙が続いた・・・

 「・・・じゃぁさ、試してみる?」

 「へ?」

いきなりの変な質問で、訳がわからず口に運ぼうとしていたケーキを食べるのを止める

 「何をですか?」

不思議そうな顔をしながら、久美が質問する

 「鷹村が目の前に居ても、乙女モードにならないか」


なっ・・・!
なんですとぉ――――――――――!


突然の話、突然の発想、そして、唐突すぎる予想外ッ
気を抜いた瞬間、きっとは口からの魂の外出を許してしまう所だっただろう、
だが、ここは魂には押し留まってもらい、平静を装い、

 「なぁに言ってんですか!鷹村さんと話したって、なんにも面白い事ないですってぇ!」

 「じゃぁ、それが本当か確かめようじゃないの、今日の夜、練習終わった後に土手で待ち合わせて、会って話す!」

 「そ、そんな突飛な!鷹村さんだって、暇じゃないですよ!」

持っているフォークをケーキにブスッと刺す、勢いが良すぎて少しお皿にヒビが入る

 「何熱くなってるの?」

呆然とフォークに刺されるケーキを見る久美と富子、はっ、と我に帰り、コホンと咳払い。

 「わ、解りました、でも、待ち合わせじゃなくて、一緒に帰るってことでお願いします・・・」

 「OKよ〜ん♪」


はぁ〜・・・・・最っ悪!!














―――その日の夜・・・―――

ジムのドアの横のカベに寄りかかり、鷹村が出て来るのを待つ
富子と久美が茂みに隠れている事はお約束ッ

 「富子さん、やめましょうよ、やっぱり失礼ですって」

 「大丈夫よぉ!本人が良いって言ってんだからぁ」

ハァっと溜息を付く久美、自分がこんな事をされたら・・・と想像してしまった。
実際ありましたけどね、こういう事ッ



待つ事約20分、ドアが開き、出て来る人物を見遣った、

 「ん?あれ?ちゃんじゃねぇかぁ!どうしたんだ?こんな時間に」

最初に出て来たのは、鴨川名物「青木村」

 「お、ちゃん、今晩はッ鷹村さん待ってんの?」

青木後ろから木村の顔ががヒョコッと覗いた、その後ろからは板垣が居た

 「あ・・・まぁ、そうです」

 「鷹村さんなら、奥で億くうがって出て来ませんよぉ?なぁんちって!」

 「「「さ、寒いッ」」」

真夏の涼しい夜だというのに、こんなに寒くて良いのだろうか?
流石、板垣家長男、家での日常生活が考えなくても目に浮かぶ。

寒いギャグでその場が冷え切ったその時、後ろから大柄な男が出て来た、
それは・・・

 「おい、なにこんな所で固まってんだよ!出れねぇだろうが!」

鷹村 守だ、
ドア付近に固まる三人を押し出して強引に外に出る鷹村、その後ろから小柄な幕之内 一歩が出て来た

 「何やってるんですか皆さん!人が居たらあたってましたよ!」

茂みに居た久美が反応する

 「ま、幕之内さん!」

 「なぁにぃよもう!久美ちゃん!今は一歩君じゃなくてちゃんでしょ!」

 「富子さんこそ、さっきまで『まちゃる まちゃる』って言ってたくせに!」

下らない理由でいがみ合っている二人を他所に、

 「うるせぇなぁ!お前も飛ばすぞ!」

 「や、やめて下さいよぉ!」

ギャーギャーと騒ぎたてているもんだから、奥から鬼がやって来た。

 「こぉらぁぁあ!貴様らぁ!騒ぐんなら他所でやれぇ!」

凄い形相で自分の持っている杖を振り回す鴨川会長、その振り回された杖が鷹村の頭に運悪くに直撃する

 「いってぇなぁ!ジジィ!ふざけんなよ!疲れ果ててるボクサーになんて事しやがる!」

 「五月蠅い!だったらさっさと帰れ!こんな所で暴れるな!」

ふん!っと鼻息を荒くして奥へ入って行った
頭をさすり、「畜生〜〜〜!覚えてろよぉ!」と小言をぶちぶち言う

 「それより、鷹村さん、お客さんスよ」

「あん?」と言って、板垣の指刺す方を見ると、長らくほっとかれて待たされたが目に入った

 「ん?なんだ、今日は久美ちゃん達と一緒にケーキバイキング行くって言ってなかったか?」

 「いや・・・ちょっと、色々ありまして・・・一緒に帰ろうかな・・・と」

 「ふ〜ん、俺様と帰りたいのかぁ、今夜はなんの」

 「あぁはいはい、もお良いですから、帰りましょう」

さっさと帰ってしまおうと、鷹村の腕を掴んで引っ張っていく

 「よし、尾行開始!」

富子が久美に合図して茂みから出ようとしたその時・・・

 「ん?富子?富子か?」

何故か青木に存在を気付かれた富子、恐るべし、カエルパワーッ(関係ない気が)

 「は!なんで気付かれたの!?」

 「なんででしょう?・・・どうします?」

 「なぁにやってんだよ!こっち来いって!」

仕方なく茂みから出て来て青木の所まで行き、気付いた理由を聞いてみた、

 「ん?いや、なんとなく、富子が傍にいるな・・・と、思ってさッ」

 「もぉ!まちゃるったらぁ!」

おもいっきり抱きつく富子、
見てて、濃くて暑苦しいッ

 「帰ろう・・・」

木村が先に帰る、続いて板垣が帰って行った。

 「あ、久美さん、居たんですか!」

 「ひ、酷いですよ、その言い方!」

 「あ・・・いや、そういうつもりじゃなくて!・・・あの、もうこんな夜遅いし、送りますよ?」

 「へ?・・・・・はい、お願いします」

久美と一歩がその場を退場ッ





いつもの土手、やっぱりここは夜になると星が綺麗だ

静かな道を二人で歩く、虫の鳴き声なんて一つも聞こえない
沈黙が続く中、楓は何を話せばいいか悩んでいた、
切り出し方、何故こんな行為に出たのか、「さよなら」を言うタイミング、
そんなシナリオをずっと考えながら歩いていた、

しかし・・・、彼は今の沈黙も、考えていたシナリオさえもぶち破った

 「そんで?」

 「へ?」

私は慌てて彼の言葉に反応した、ビックリした、いきなり話し掛けてくるから・・・

 「なんか用事があって俺様を誘拐したんだろ」

 「誘拐って!・・・人聞きが悪いですよ、そうじゃなくて・・・」


ひどい・・・ずっと、ずっと考えてたのに・・・
切り出しは、『綺麗な月ですね!兎がいるかも』って言って、それで・・・今日の話をして、それで・・・
これじゃぁ、全部丸潰れじゃない・・・・・


 「なんだよ」

何かの威圧感を感じながら、なんだか追い詰められてる


・・・もう、駄目かな。


スッと一瞬息を吸って静かに深呼吸する、瞬間、言葉を発しようとした時・・・

 「ま、どうせ下らない理由だろ?聞くのも面倒臭ェから言わなくて良いぞ」

頭の後ろで腕を組んで夜空を見上げる

意外な鷹村の言葉に驚き、言葉も出せない状態が続いた、
いきなり、実にいきなりの出来事、
いつもだったら鷹村の方から根掘り葉掘り聞き出そうとするのに・・・

何かあったのだろうか?

 「・・・あの、何か良い事でもありましたか?」

 「は?・・・なんで」

 「いや・・・なんとなく」

フイッとそっぽ向き腰あたりで手を組み歩いて行った

 「変なだな、おら、さっさと帰るぞ」

 「あ、はいッ」

何事もなく、自然に家に帰宅しようと思った瞬間、
何かが脳裏を過ぎった



・・・・・・・・・・ん?待てよ?何か可笑しくなかったか?



だって今、さっさと帰るぞって、

帰るって・・・


何処へ?

何か、嫌な予感がした。


 「無論、俺様の家に帰るんだろ?」

嗚呼、やっぱり・・・

 「おっと、何も言わせないぞ、今日はそのつもりで来たんだろ?独りじゃ寂しいからってんで俺様と一緒に帰ろうって魂胆だったんだろ?」

 「違います!!」

ハッキリ、キッパリ言った。

 「なんだよ、そんな照れなくても良いじゃねぇかよ」

 「怒りますよ、遂には怒りますよ!?」

 「もう怒ってんじゃねぇかよ」

ムキ〜〜〜!と肩をグルグル回すが、意図も簡単におでこを抑えられ、抵抗も虚しく終わってしまった

 「お前、まさか俺様のた「わ〜〜〜!」が受けられねぇってのか!?」

 「五月蠅い 五月蠅い!もう良いです!私先に帰ります!」

いそいそと帰ろうと小走りしたが、あえなく捕まり体を持ち上げられまるで子犬のような扱いをされた。
それはまるで、熊が兎を掴むが如く。

 「わぁ!離して下さいってぇ〜〜〜!」

 「痛ぇ!おい、足バタバタすんな!顔に当たるだろ!痛ッ!!暴れんなぁ!」

 「変態〜〜!」

そして兎は熊に捕まり、巣まで持ち帰られ、その日の晩御飯になってしまいました。


おしまい





―――後日。

 「結局、ちゃんが乙女になる所、見れなかったわねぇ、久美ちゃん」

 「いや、なんか、乙女じゃなくて鬼になったそうですよ?」

 「・・・は?」



***end***














@あとがき

鷹村さんが全然出て来なかった:汗
今度書くやつでは、最初から出るのを書きたいなと思っています。

つか、書き進むにつれて文が変になっていくは、かなり長くなるはでてんてこまいです:汗

あぁ、汗ばっか流れます;;;