悪戯
―Trick or Treat―



 本日10月31日、満月がオレンジに輝く今宵は「ハローウィン」の夜。
「トリック オア トリート」と数多の家々を巡回し聞き回り、家の者に「悪戯されるかお菓子をくれるか」どっちにするかを選ばせる子供達。

その脅しに対して、笑顔でキャンディやチョコを渡す気違いの大人達。何かを含んだ微笑を浮かべ、飛跳ね喜び去って行く子供を背に、
満足げな顔をして大人は入って行く。

 なんとも恐ろしい時代になったものだと私は思う。






 「、お前悲観的になりすぎじゃねぇのか?」

 切々と語るの話を聞き終わり、鷹村の、彼女の話に対する呆れた反応だ。

 10月31日、現在 真昼の11時過ぎのこの時間に、今夜「ハローウィン」のことについて、の家で鷹村とだべっていた。
いつの間にやらが熱く語ってしまっていたところだ。

 「そんな事ありません!”トリック オア トリート”!つまりは『生か死か』ってことじゃないですか!!命が危ないですッ」

 「なんだよそのサバイバル的な発想は、そんなじゃ毎年10月31日に一家で人数分 機関銃持たなきゃならねぇじゃねぇか」

 「でも!実際そうなんです!」

 何処かの誰かにそう吹き込まれだのか、そうやって育ってきたのか、そう言い張るの態度を見ていると、なんとも溜息が出てしまう。

 どうにか、この頑なに頑固な頭の妄想女の考えを曲げられないだろうか・・・

 「なんでそうなるんだよ、実際俺様はガキの頃はよく飴貰ってたぞ。”トリック オア ト”・・・」

 「あぁ〜〜〜!やめて下さい!恐ろしいその呪文を唱えないで下さい!」

 「・・・・・・・・・・ッ」


なんでこんなやたらとハロウィン嫌がってんだ?こいつ・・・マジで言ってんのか?


 頭を悩ませていた時ふと脳裏に浮かんだ、確かは日本出生ではあるが、小学三年生にして、アメリカへ留学していた時があり、
一度中学生になってから日本に帰って来たという帰国子女だという話を聞いた事がある。
実際が中学の時、鷹村が高一の時点で、色んな引き合わせがあって出会っている。

 もしかして、アメリカの影響だろうか・・・

 「・・・アメリカで、なんかあったか?」

 あまり訊いてはいけないことなのだろう。解っていても気になってしまう。
そう脳裏で考えた刹那、いつの間にか発していた言葉だった。
 ”アメリカ”という単語を聞いた瞬間、の体がビクッと動いた。
 過剰なまでの反応、「聞きたくなかった」と言わんばかりの表情、これを見ればすぐに大体の事は解るだろう。
 これ以上訊くことを自分自身の精神がストップをかける。
悪い事を訊いてしまったと、彼なりに自己嫌悪に陥っていた。

 「・・・ありましたよ。」

 鷹村が謝るつもりで下ネタに走ろうとしたその瞬間ハッキリ、単刀直入に言われてしまい、雰囲気がズンと
重くなってしまった。
この雰囲気をどうすべきかとムンムン考える鷹村。

 「・・・まっ、昔の話ですから。あ、お茶出しますね」

 「あぁ・・・おう、すまん」

 「すまん」と言ったのは、決して「気遣わせてすまん」という意味ではなく、その前の話に対しての
「すまん」なんだと、頭の中でゴチャゴチャと考えている間に、緑茶を目の前のテーブルに出されてしまい、
タイミングが悪くなって逆に何も言えなくなってしまった。


こんなのいつもの俺様じゃねぇ!いつもならこんな雰囲気にならねぇのに・・・
ったく、なんでこんなに考えなきゃなんねぇんだよ、苛々すんなぁ・・・


 一人で苛立っている様子を察し、鷹村の隣に体育座りした。

 「気にしないで下さい、私が変な事いわなければ良かった話ですから・・・らしくないですよッ」

 座ったまま自分の肩を鷹村の肩に当てて、和やかな雰囲気になった。
いつもこうやって、が雰囲気を軽くしたり、時には誤魔化したりするのだが、
そこがまた可愛くて、いつも心の中で許してしまう。

 「ふん、俺様が気にしてるとでも思ったかッ」

 「痛ッ」

 力加減を利かせ、デコピンをする。
によって和まされた雰囲気をここでいつもよいしょするのが自然に鷹村の役目になっている。
 差ほど痛くはないが、なんだかヒリヒリする気がする。

 「・・・ん〜、じゃぁ今夜はハロウィンパーティ出来ねぇな」

 「へ?」

「ハロウィン」はともかく、『パーティ』という言葉に反応する

 「俺様がメインで、あとは小物どもとパーティする予定なんだけどよ」

 「へ・・・へぇ」

 そっぽを向いて、さも自分は関係ないような顔をして、羨ましい気持ちを誤魔化す。

 「本当はん家が1番広いから、誘えたらん家でパーティしようかと思ってたのになぁ・・・」

 「ざ、残念でしたね」

 内心ちょっと複雑な

 「仕方ねぇか、他 渡るしかねぇよなぁ、なんせはハロウィンが怖いんだもんなぁ?」

 「う・・・」

 嫌味な表情でズバズバと精神的ダメージを与えられ、思わず出た一息ッ

 「あれぇ?どうしたのかなぁ?その苦しそうな顔、そんなにハロウィン嫌いなのかぁ?」

 「そ・・・う・・・ぅ」

 「だよなぁ、じゃぁしょがねぇよなぁ、死ぬほどハロウィン嫌いなんだもんなぁ、あぁ残念 残念ッ」

 そう言いながら鷹村がスクッと立ち上がり、身支度を始める。

 「あれ・・・帰るんですか?」

 「主役が遅れるわけにはいかねぇだろ」

 いつの間にか13時を回っていたのに気付き、少し焦った。

 「も、もう行くんですか?パーティって夕方とか、夜とか・・・」

 「パーティやる場所なくなったから探しに行くんだよ」

「もうウチでやる事前提かいッ」と内心ツッコミを入れる。

 「それじゃぁな」


待って、行かないで!そうじゃなくて・・・ハロウィンの夜が怖いの・・・!


 玄関へ、心なしかゆっくり歩いて行く鷹村の背中をは躊躇いながらじっと見る。

 「・・・・・・・・・・あッ」

 思い切って呼びかけようとするが、変な緊張のせいで声が出ない。

 「あ、鷹・・・む・・・」



 の脳内で、光の速さでハロウィンの夜の記憶が甦ってきていた



 「い・・・行かないで!!」

 突然大きい声で叫ばれ、鷹村の心臓が三拍ほど速く動いてしまった。
 後ろを振り向くと、彼女は顔を伏せていた。何かに怯えているかのように・・・

 「な、なんだよ、いきなりデケェ声出して・・・」

 「何処にも・・・行かないで、置いてイカナイで・・・」

 段々語尾がかすれ声になっていく、その声から、が泣いている事が容易に解る。

 「ちょっと意地悪しただけだろが、泣くなよ・・・」

 の前に立ち、膝をついての顔を見ようとするが、どの角度からも彼女の表情が見えない。

 「おい、・・・顔上げろよ」

 困り果て、手を肩に添えると、肩の上にのっている手の温もりに気付き、は添えられた手を握る

 「・・・暖かい」

 の予想外の行動に内心ちょっとビックリする鷹村。
今日は本当に自分らしくない、いつもなら、こんな事してこないが自分の手を掴んでこようものなら、
その場で押し倒してしまうというのに、何故かこの時はそんな気になれなかった。


おかしい、今日の俺様・・・ッ


 何かに納得出来ないでいた。
 我に返ったが、無意識の内に掴んでいた鷹村の手をすぐさま離した。

 「あ、ご、ごめんなさい・・・私・・・」

 どうすれば、この場の雰囲気全てを変えられるのか、お互い熟考するがみつからず、結局沈黙状態になってしまった。



 「ウチで・・・やっても良いですよ?・・・パーティ・・・」

 しばしの沈黙を破り、思い切って言った言葉がこの一言。

 「へ?・・・良いのか?ハロウィン、怖くねぇのかよ」

 「大丈夫ですよ、身内でやるんなら・・・どちらかというと、『ハロウィン』より、『パーティ』がやりたいんです・・・皆で・・・」

 顔を赤らめながら話す様子を見て、何かを感じた。
 そう・・・


やばい、このまま押し倒しちゃだめか?


っと。だがしかしここは我慢だ。せっかくパーティ参加を本人が望んでいるのだから。
我慢・・・我慢・・・がま・・・・・

 「そういえば、何か仮装するんですか?猫とか・・・」

 
「おうッ、その予定だ!」

 何故か大声で言う。妙な気分だ・・・
どうやら鷹村の中で何かがハジケたようだ。

 「じゃぁはもう参加決定な!それとついでに仮装する衣装も『黒猫』で決まりな」

 「何か・・・狙われているような気がしますが・・・」

 「気のせいだろッ」


 
口笛を吹く姿が、妙な雰囲気をかもし出す。

 「おし!それじゃぁ準備すっかぁ!電話すっから貸してくれ!

 「良いですよ、そこにあります」

 ルンルン気分でボタンを押す。
 その子供のような姿を見て、なんだかクスッと笑えてくるようなものがあった・・・



 「どうか・・・今夜は・・・何事もありませんように・・・」



 そう月に願いを込めていた・・・―――――


続く










@あとがき@

おう、終わりましたッ今回の文もかなりボロボロですね;その上まとまってないッ

痛い、痛すぎるッ

もっと鷹村さんを発揮させたかったです。あの”理不尽エロ大魔王”をッ:笑

次回続きは、結構甘甘でいくと思うのでよろしくです・・・